ハイイールド債アップデート

4%台前半のIPT(イニシャル・プライス・トーク)

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この月間レポートでは、最初から数パラグラフ後で、いつも発行市場に関して書いています。ただし、今年は年初からほぼ毎月発行額が過去最高を記録しているにもかかわらず、この月間レポートで発行市場について最初に取り上げたことはありませんでした。 そこで今回は最初に書くことにしました。遅ればせながら。お膳立てのためにいくつかの図を見てみましょう。

借り手側の大騒ぎ...年初来のハイイールド債の発行はこれまでの年を上回る

出所: クレディ・スイス

新たな情報に接して価格の反応が大きくなったのは、市場のどの部分だったでしょうか。

出所: LCD

米国のハイイールド債での借り手による年初来の発行額は、過去2回のクレジット・サイクルの同時期と比較して、非常に多くなっています。これまで約2,510 億ドルの債券が毎月500億ドル前後のペースで組成されており、年初から各月の発行額は、その月では過去最高となっています。実際、ハイイールド債のストラテジストからのメールの件名には、今年に入ってから毎月のように「〇月として過去最高の発行額」という言葉が並んでいます。超低水準の借入コストは、代表的な発行体と初めての発行体(真に借り入れが初めての発行体と、以前はローン市場のみで借り入れていた発行体)の両方にとって、コールプレミアムを支払ってでも高コストの負債を借り換える明らかな動機となっていました。通常の借り換えで、純負債は増加せず、デュレーションが長期化し、まさしく記録的な低水準のオールイン利回りが得られます。戦略的M&AやスポンサーLBOによる資金調達の動きもここ数カ月で活発になっており、4月と5月の発行額の30%弱を占めています。ちょうど先週、メドライン社による買収が発表されたばかりです。大型でプライベート・エクイティのコンソーシアムが主導する買収の復活(2006~-2007年のメガバイアウトを彷彿とさせる)は、今後のさらなる負債発行を示唆しています。

特に、繰り返し発行する借り手の場合、機関投資家の間でクレジットのファンダメンタルズがよく知られており、新発債のシンジケーションプロセスはかなり単調なものになります(初めての発行体やよりリスクが高い発行体、もしくは信用階層がより多重的な引受案件はそうなりません)。シンジケートデスクは通常、オファー・ドキュメント、条件の要約、および「イニシャル・プライス・トーク」(IPT)と呼ばれる当初価格メッセージを配布してディールを発表します。”このオファー価格は、通常は額面で組成されるディールのクーポンの形式で、そのディールの最終的な価格(利回り)に対する市場の期待値で決まります。この価格は、市場で比較可能なリスクを持つ債券(発行体の資本構造内の他の債券や、同等の発行体の債券など)で観測される利回りの情報を反映しており、事前に主要な投資家にあたって調査する場合もあります。では、観測可能な利回りに分散がほとんどない市場では、これらのIPTはどのようになるでしょうか。当然、似たようなものになりがちです。実際、「4%前半台」(利回り4%台前半)のIPTは、この4%前後のハイイールド債市場でシンジケートされるディールの初期設定値となっているようです。 5月にシンジケートされたディールのうち、約30%が、初値(もしくは引き受け最終段階で)の利回りが4%台前半となっており、6月に入ってからも約半数の案件が4%台前半となっています。

最近の月報で、現在の市場の特徴として、価格(イールドやスプレッド)だけでは債券を識別できなくなってきていると強調しました。これは既発債券全体に加え、新規に発行される債券のフローにも当てはまります。 興味深いことに、社債投資家主導の市場では分散が高いことが特徴だと考えられがちですが、債券の区別がつかなくなる時期にこそ、社債投資家(アクティブマネジャー)は、大きく違いが発揮される予想リターンのパターンを持つポートフォリオを構築することができるのです。

市場パフォーマンス

5月のハイイールド債のリターンはクーポンを若干下回り、年初来のリターンは0.30%増の+2.25%となり、精彩を欠くものでした。トレーダーによると、市場は非常に需給要因に左右されがちな「テクニカル」な状況にあり、構造的な(相対)利回りの追求とアニマルスピリットの高まりも、資金流出と発行増で抑えられていると考えられます。その結果、月の大半がレンジ相場で推移しました。

5月は再び、CCC格とディストレスト債が、低利回りでコンベクシティが(より)ネガティブである高品質の債券を上回りました。しかし債券の質の観点で全体を見ると、バリュエーションの絶対値が圧縮されているため、アウトパフォームの度合いは小さくなっています。このような「好材料」がリターンに反映されている一方、経済と資本市場への基本的な追い風は途切れていません。

出所: ブルームバーグ、バークレイズ

バリュエーションとリターンのパターンは全体的に区別がつかなくなってきていますが(上述のコメントによる)、5月はセクター間で限界的なアウトパフォームとアンダーパフォームが見られました。特にエネルギー関連、中でも石油・ガス価格の回復が業績(および財務)に最も影響する発行体の債券は、コモディティ価格の再上昇に伴って5月に大幅に上昇しました。一方、医薬品セクターの代表企業であるエンドー・インターナショナルとボシュ・ヘルスの資本構造は、個別のリスク要因(前者ではオピオイド訴訟、後者では不利な事業再編)が顕在化したことにより、それぞれ数ポイントの影響がありました。

出所: ブルームバーグ、バークレイズ

市場の需給状況

ハイイールド債券ファンドは、今月、今年最大の資金流出となり、合計で39億ドルの流出となりました。これらの資金はすべてアクティブ運用のミューチュアルファンドから流出したもので、ETFにはわずかな純流入がありました。背後にある理由は単なる資金流出という反応で、その反応自体もかなり小さかったと思われます。確かに、この資金流出は債券市場での買いの動きをわずかに弱めたかもしれませんが、価格の乱高下にはほとんどつながりませんでした。

5月の相対的に大きな資金流出もレンジ相場を乱すには至らず

出所: クレディ・スイス、EPFR

今月は最初のところで発行市場に焦点を当てましたが、以下は5月の個別統計数値です:

  • •490億ドルの米ドル建てハイイールド債券が5月に発行されました。
  • •これは5月としては過去最高の金額です。

ファンダメンタルズのトレンド

企業のデフォルト関しては、少なくとも投資適格以下の企業の間では、まだ静かな状況が続いています。ディストレスト・エクスチェンジを含め、今年に入ってからハイイールド債の発行体でデフォルトに陥ったのは計3社です(最初の2カ月間はデフォルトが全くなく、直近3カ月間は毎月1社)。言うまでもなく、ストレス状態やディストレスト状態にあるクレジットの機会は非常に少ない状況です。これは、特に昨年の大規模な債務再編のいくつかが終了したか、ワークアウトの終了に近づいているからです。とはいえ、個別のリスク要因が顕在化して特定の資本構造に影響するため、新たな機会の可能性が完全に枯渇したわけではありません。例えば、エンドー・インターナショナル(ENDP)の社債は3月から22ポイントも値下がりし、無担保社債は現在60%台半ばで取引されています。豊潤な投資機会が新たに生まれる可能性があります。

過去数カ月の間に観察されたように、パンデミックによるデフォルトサイクルは終焉を迎えているように見え、調達可能な資金は豊富で、貸し手はリスクに前向きな姿勢を取り、コンベクシティと高イールドはほとんど不在です。当社では、ここ数カ月間で以下のような市場統計のフォローを始め、これらのデータがそれほど変則的でなくなるまで掲載を続ける予定です:

  • 1.5兆ドル規模のハイイールド債券市場において、90ドル以下の価格(時価ベース)で取引されている債券は全体の1.4%
  • 80ドル以下の価格で取引されているものは0.6%
  • 70ドル以下で取引されている銘柄数(企業数ではなく)は、わずか14銘柄
  • 50ドル以下で取引されている銘柄数は3銘柄のみ

繰り返しになりますが、事の是非はともかく、デフォルトリスクは紛れもなく(客観的に)この市場には織り込まれていません。

5月までのデフォルト:2021年のハイイールド企業のデフォルトは非常に少ない

出所: クレディ・スイス

 

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